民法の相続部分の改正が2018年7月に行われました。
今回の改正は、高齢化社会が進む中での社会情勢等の変化に対応するため、1980年以来約40年ぶりの大きな改正となりました。
各項目の内容を施行日順にご紹介します。
(2019.1.13施行済)
[自筆証書遺言の方式緩和]
自筆証書遺言の財産目録については、手書きで作成する必要がなくなりました。
従来は、自筆証書遺言を作成する場合は、財産目録も含めて全文を自書しなければならなかったため、その負担は大きいものでした。
今後は、パソコン等で作成した目録、銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明等を自筆証書遺言に添付することができるようになったため、財産が複数ある場合などの作成時の負担軽減につながります。(各頁に署名押印は必要)
(2019.7.1施行予定)
[婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置]
婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合については、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定し、特別受益(遺産の先渡し)として取り扱うことはしないため、遺産分割における配偶者の取り分が増えることになります。
従来は、贈与等を行ったとしても、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱われるため、配偶者が最終的に取得する財産額は、結果的に贈与等が無かった場合と同じになり、被相続人が贈与等を行った趣旨が遺産分割の結果に反映されませんでした。
今後は、原則として遺産の先渡しを受けたものと取り扱う必要がなくなり、配偶者は、より多くの財産を取得することができ、贈与等の趣旨に沿った遺産の分割が可能となります。
[預貯金の払出し制度の創設]
預貯金が遺産分割の対象となる場合、各相続人は、遺産分割前でも一定の範囲で預貯金の払い出しを受けることができます。
従来は、遺産分割が終了するまでの間は、預貯金債権は遺産分割の対象に含まれるため、相続人単独では生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済等に被相続人の預貯金の払い戻しができませんでした。
今後は、預貯金の一定割合(相続開始時の債権額の1/3に法定相続分を乗じた額‥上限有(150万円))については、家庭裁判所の判断を得なくても金融機関の窓口での支払いが受けられるようになります。
また、
・仮払いの必要性があると認められる場合には、他の相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになります。
・払出しを受けた預金債権は、遺産の一部分割によって取得したものとみなされます。
[特別寄与制度の創設]
相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭の請求ができるようになります。
従来は、相続人以外の者は、相続人の看護に尽くしても、相続財産を取得することができませんでした。
今後は、介護等の貢献に報いることができ、実質的な公平が図られるようになります。
なお、
・特別寄与料は、各相続人が法定相続分に応じて負担します。
・相続人の協議により、特別寄与料の額が決められますが、協議が不調となった場合は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求できます。
[遺留分制度の見直し(遺留分減殺請求権⇒遺留分侵害額請求権)]
遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けたものに対し、遺留分相当を金銭で請求することができるようになります。
従来は、遺留分を請求されることにより遺産の共有状態が発生し、安定した居住や事業継続の支障となっていました。
今後は、遺留分侵害額相当を金銭で支払うことにより、共有関係が当然に生じることを回避することができ、遺贈や贈与の目的財産を受遺者に与えたいという被相続人の意思を尊重することができるとともに、事業承継にも支障をきたさないことが可能となります。
また、
・遺留分の金銭請求を受けた者が、金銭を直ちに準備できない場合は、裁判所に対して支払いの期限の猶予を求めることができます。
・遺留分算定財産に算入される贈与は、相続開始前1年間にしたものに限られますが、受遺者が相続人の場合(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与に限る)は、相続開始前の10年間になされたものを遺留分算定財産に含めます。
[遺産分割前に遺産を処分した場合の遺産の範囲]
遺産分割前に相続人によって遺産が処分された場合は、その相続人の同意が無くても、他の相続人全員の同意があれば、処分された遺産が遺産分割時に遺産として存在するものとして遺産分割ができるようになります。
従来は、遺産分割前に処分された遺産を取り戻すためには、遺産分割とは別の訴訟を地方裁判所に起こす必要がありました。
今後は、遺産分割前に不当な遺産の処分が無かったものとして取り扱え、不公平が是正されるようになります。
[遺産分割の一部分割]
遺産分割は全財産を対象として一度で行う必要はなく、一部の遺産を対象として行うことが認められました。
従来は、一定の要件(必要性、合理性、公平性)があれば家庭裁判所に請求できました。
今後は、明文化されたことにより、
①相続人間の協議によるか
②協議が調わない場合は、家庭裁判所の審判
により、遺産の一部分割ができるようになります。
なお、被相続人の遺言により、一部分割が禁じられていないことが必要です。
[遺言執行者の権限の明確化]
遺言執行者は、遺言内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する、とのように、遺言内容を実現することが遺言執行者の目的であることが明確化されました。
従来は、遺言執行者の法的地位・任務が必ずしも明確ではありませんでした。
今後は、目的・責務が明確化され、遺言内容を実現するための行為か否かが判断基準となります。
また、
・遺言執行者の行為は、権限内において遺言執行者であることを示してする必要があります。
・任務を開始したときは、遺言の内容を相続人に通知しなくてはなりません。
・登記や預貯金の払い戻し請求等は、原則、遺言執行者に認められます。
・自己の責任で、第三者に任務を行わすことができます。(復任権)
[相続の効力等に関する見直し]
法定相続を超える部分の財産については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができなくなります。
従来は、登記等の要件がなくても相続内容を知らない第三者に対抗できました。
今後は、対抗できなくなり、相続の内容を知らない第三者が保護され、取引の安全が確保されることになります。
(2020年4月1日施行予定)
[配偶者居住権の新設]
被相続人の財産であった建物に、被相続人の配偶者が相続開始時に住んでおり、相続開始時に配偶者以外の方と共有していない場合には、配偶者は、
①遺産分割で配偶者居住権を取得
②配偶者居住権が遺贈の目的
③配偶者居住権が死因贈与の目的
に該当すれば、終身または一定期間(遺産分割協議や遺言に定めた期間)、その建物の全部について無償で使用及び収益する権利を取得できます。(家庭裁判所の審判により認められる場合があります)
従来は、遺産分割において、配偶者が居住用建物を取得した場合に、その評価額によってはその他の財産(預貯金等)を受け取れなくなってしまう場合があり、住む場所はあるけれども、その後の生活費の不足が生じる場合がありました。
今後は、配偶者は、自宅で居住しながらその他の財産(預貯金等)も取得できるようになるため、老後の生活資金が得やすくなります。
また、
・配偶者が居住する建物の所有者は、配偶者に対して居住権設定登記を備えさせる義務を負い、この登記により第三者への対抗力を持つとともに、占有が妨害されている場合には、妨害排除請求や返還請求が可能です。
・配偶者には、居住建物への善管注意義務が課され、改築・増築・第三者の使用収益は所有者の承諾が必要であるとともに、配偶者居住権の譲渡は禁止されます。ただし、使用及び収益に必要な修繕は可能です。
・配偶者は、居住建物の通常の必要費の負担が必要です。
[配偶者短期居住権の新設]
被相続人の財産であった建物に、被相続人の配偶者が相続開始時に無償で住んでいた場合、相続権のある配偶者は、
①配偶者を含む相続人間で遺産分割をすべき場合は、遺産分割による居住建物の帰属が確定した日、または、相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日
②それ以外の場合は、居住建物取得者による短期居住権消滅の申し入れ日から6か月を経過する日までの期間
居住建物取得者との間で、相続開始の時に居住建物について使用していた範囲に応じて、居住建物を無償で使用する権利を取得します。
従来は、第三者への遺贈や相続人が反対の意思表示をした場合、配偶者の居住が保護されませんでした。
今後は、常に最低6か月間は、配偶者の居住権が確保されることになります。
また、
・配偶者には、居住建物への善管注意義務が課され、第三者への使用は所有者の承諾が必要であるとともに、配偶者短期居住権の譲渡は禁止されます。ただし、使用に必要な修繕は可能です。
・配偶者は、居住建物の通常の必要費の負担が必要です。
(2020.7.10施行予定)
[法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設]
法務局に自筆証書遺言の保管を申請できるようになります。
従来は、自宅等での保管していたため、紛失、未発見、偽造等の危険がありました。
今後は、これらの解消が見込まれます。
また、
・相続人や受遺者は、法務局において遺言書が保管されているかどうか調べることや遺言書の写しの交付を請求、閲覧することができるようになります。
・検認が不要となります。